最初に目に入ったのは、壁に掛けられた風景画。
傍らの窓からは明るい日差しが差し込み、鳥の声が聞こえてくる。
静かで、穏やかな空間だった。
「ここ・・・どこ?」
呟いた時、窓の反対側にあったドアがノックされた。
返事ができずにボウッしているとドアが開き、白衣を着た初老の女の人が入ってきた。
傍らの窓からは明るい日差しが差し込み、鳥の声が聞こえてくる。
静かで、穏やかな空間だった。
「ここ・・・どこ?」
呟いた時、窓の反対側にあったドアがノックされた。
返事ができずにボウッしているとドアが開き、白衣を着た初老の女の人が入ってきた。
「あら、目が覚めた? 気分はどう?」
優しい笑顔をあたしに向け、手に持っていたトレーをベッド脇の棚の上に置いた。
トレーにはトーストとミルク、林檎とヨーグルトが乗っていた。
「朝食を持って来たわ。食べられそう?」
「あ・・・はい。あの・・・ここは?」
「私は高原妙子(たかはら たえこ)、医者よ。ここは私の経営してる病院で、あなたは昨夜かつぎ込まれたのよ」
昨夜の記憶がおぼろげに浮かび、あたしはあの陰気な男の事を思い出した。
「あの・・・あたしを運んできたのって、男の人ですか? 背が高くて、大分痩せてる・・・」
「京介君の事ね。ええ、あの子があなたを連れてきたのよ。びしょ濡れで驚いたわ。それよりもほら、お食べなさいな」
「あ・・・はい、頂きます・・・」
トーストを一口かじると、中にはハムとレタスが入っていた。
美味しい。
食欲が湧いて、いつの間にか夢中でパクついていた。
「それだけ元気よく食べられれば、心配なさそうねえ」
彼女の癒されるような微笑に、あたしはトーストをくわえたまま赤面してしまった。
食べ終わると簡単な診察をして、またベッドに横になった。
「もう大丈夫だと思うけど、念のために今日はゆっくりしておきなさい」
「あ・・・、あの、あたし、お金が・・・」
手持ちのお金は底をついていた。
あたしの暗い表情ですぐに察したのか、彼女はまた優しく微笑んだ。
「いいのよ、今はそんな事の心配しなくて。今無いなら、出来た時に少しずつ払ってくれればいいわ」
そう言って、部屋を出て行った。
この部屋は一階にある。
窓の外から見える中庭には、温かい日差しを浴びて色とりどりの花が咲き誇る花壇があった。
そこに、あの男がいた。
「あの人・・・!」
ジョウロで花たちに水をやっている。
横顔が見えた。
・・・優しい、顔。
少なくとも、会った時の陰気さはまるで感じられない。
「あっ! あ、あの!」
「ん?」
振り向いた・・・仏頂面になってる。
むう、何か失礼じゃない?
「目が覚めたのか、どうだ? 具合は」
あ、心配はしてくれてるんだ。
「えっと、大分いい感じです。・・・その、あなたが助けてくれたんですよね?」
「まぁな。あのまま放っといて死なれても寝覚めが悪かったしな」
「・・・」
もしかしてこの人、けっこー意地悪?
「ともかく、助けてくれてありがとうございました」
「気にするな、さっさと直して帰るんだな。それでまだ死にたかったら、今度は人の迷惑にならない所を選んでくれ」
・・・けっこーじゃない、かなり意地悪だ。
まぁそんな事は置いといて・・・帰る所か・・・。
「帰る場所なんて・・・無いです」
「なに?」
養父の所に戻るなんて絶対嫌だ、それこそ死んだ方がマシだ。
「・・・」
「自殺を考えるくらい、何かに追い詰められているという事か」
俯いて、目を逸らした。
目の片隅に、蜘蛛の巣にかかった羽虫が見えた。
懸命に暴れている所へ、蜘蛛がにじり寄っていく。
・・・まるで、私のようだ。
これで養父に捕まったら、今度こそ逃げる事はできないだろう。
ゆっくりと、嬲られて、しゃぶられて、吸い尽くされるんだ・・・。
「高原先生に相談してみろ」
「え?」
再びかけられた声に、あたしは顔を上げた。
彼は花壇に水を撒きながら、無感情に言った。
「高原先生に相談してみろ。先生は顔が広くてな、お前の手助けになってくれるかもしれん」
「・・・あの先生に・・・?」
先程の優しい微笑を思い出す。
助けに・・・なってくれる・・・。本当に?
「選ぶのはお前さんだ、好きにしろ。だがまぁ・・・」
あたしに向かって歩いてきた彼は、窓越しに手を伸ばして・・・。
あたしの、頭を撫でた。
「あ・・・」
「俺も助けた手前、結局死なれた、では後味が悪すぎるしな。相談、するだけしてみろ」
ぽふぽふ、と頭を撫でる彼の手は大きくて、温かくて・・・。
視界の片隅に、さっきの蜘蛛の巣が映った。
蜘蛛に飛びかかられる直前、羽虫は間一髪で脱出に成功して飛んでいった。
・・・羽虫に、自分を重ねた。
「・・・うん、してみる」
「そうか」
手が離れていく。
温もりが失せて行くことを寂しく感じつつ、あたしはある事に気がついて驚いた。
なんであたし、平気なんだろう?
男に近寄られただけで、気持ち悪くなる・・・筈なのに。
あたしは花壇に水を撒く彼の背中を見た。
その背中に、何故かデジャブを感じた。
・・・あなたは一体・・・?
(5へ続く)
あとがき
リイのストーリー【4】のお届けです。
えらい間が空いてしまった・・・orz
謎の男、京介。
無感情、無表情、ついでに意地悪w
さて、リイに今後どう関わってくるのか、お楽しみに・・・。
優しい笑顔をあたしに向け、手に持っていたトレーをベッド脇の棚の上に置いた。
トレーにはトーストとミルク、林檎とヨーグルトが乗っていた。
「朝食を持って来たわ。食べられそう?」
「あ・・・はい。あの・・・ここは?」
「私は高原妙子(たかはら たえこ)、医者よ。ここは私の経営してる病院で、あなたは昨夜かつぎ込まれたのよ」
昨夜の記憶がおぼろげに浮かび、あたしはあの陰気な男の事を思い出した。
「あの・・・あたしを運んできたのって、男の人ですか? 背が高くて、大分痩せてる・・・」
「京介君の事ね。ええ、あの子があなたを連れてきたのよ。びしょ濡れで驚いたわ。それよりもほら、お食べなさいな」
「あ・・・はい、頂きます・・・」
トーストを一口かじると、中にはハムとレタスが入っていた。
美味しい。
食欲が湧いて、いつの間にか夢中でパクついていた。
「それだけ元気よく食べられれば、心配なさそうねえ」
彼女の癒されるような微笑に、あたしはトーストをくわえたまま赤面してしまった。
食べ終わると簡単な診察をして、またベッドに横になった。
「もう大丈夫だと思うけど、念のために今日はゆっくりしておきなさい」
「あ・・・、あの、あたし、お金が・・・」
手持ちのお金は底をついていた。
あたしの暗い表情ですぐに察したのか、彼女はまた優しく微笑んだ。
「いいのよ、今はそんな事の心配しなくて。今無いなら、出来た時に少しずつ払ってくれればいいわ」
そう言って、部屋を出て行った。
この部屋は一階にある。
窓の外から見える中庭には、温かい日差しを浴びて色とりどりの花が咲き誇る花壇があった。
そこに、あの男がいた。
「あの人・・・!」
ジョウロで花たちに水をやっている。
横顔が見えた。
・・・優しい、顔。
少なくとも、会った時の陰気さはまるで感じられない。
「あっ! あ、あの!」
「ん?」
振り向いた・・・仏頂面になってる。
むう、何か失礼じゃない?
「目が覚めたのか、どうだ? 具合は」
あ、心配はしてくれてるんだ。
「えっと、大分いい感じです。・・・その、あなたが助けてくれたんですよね?」
「まぁな。あのまま放っといて死なれても寝覚めが悪かったしな」
「・・・」
もしかしてこの人、けっこー意地悪?
「ともかく、助けてくれてありがとうございました」
「気にするな、さっさと直して帰るんだな。それでまだ死にたかったら、今度は人の迷惑にならない所を選んでくれ」
・・・けっこーじゃない、かなり意地悪だ。
まぁそんな事は置いといて・・・帰る所か・・・。
「帰る場所なんて・・・無いです」
「なに?」
養父の所に戻るなんて絶対嫌だ、それこそ死んだ方がマシだ。
「・・・」
「自殺を考えるくらい、何かに追い詰められているという事か」
俯いて、目を逸らした。
目の片隅に、蜘蛛の巣にかかった羽虫が見えた。
懸命に暴れている所へ、蜘蛛がにじり寄っていく。
・・・まるで、私のようだ。
これで養父に捕まったら、今度こそ逃げる事はできないだろう。
ゆっくりと、嬲られて、しゃぶられて、吸い尽くされるんだ・・・。
「高原先生に相談してみろ」
「え?」
再びかけられた声に、あたしは顔を上げた。
彼は花壇に水を撒きながら、無感情に言った。
「高原先生に相談してみろ。先生は顔が広くてな、お前の手助けになってくれるかもしれん」
「・・・あの先生に・・・?」
先程の優しい微笑を思い出す。
助けに・・・なってくれる・・・。本当に?
「選ぶのはお前さんだ、好きにしろ。だがまぁ・・・」
あたしに向かって歩いてきた彼は、窓越しに手を伸ばして・・・。
あたしの、頭を撫でた。
「あ・・・」
「俺も助けた手前、結局死なれた、では後味が悪すぎるしな。相談、するだけしてみろ」
ぽふぽふ、と頭を撫でる彼の手は大きくて、温かくて・・・。
視界の片隅に、さっきの蜘蛛の巣が映った。
蜘蛛に飛びかかられる直前、羽虫は間一髪で脱出に成功して飛んでいった。
・・・羽虫に、自分を重ねた。
「・・・うん、してみる」
「そうか」
手が離れていく。
温もりが失せて行くことを寂しく感じつつ、あたしはある事に気がついて驚いた。
なんであたし、平気なんだろう?
男に近寄られただけで、気持ち悪くなる・・・筈なのに。
あたしは花壇に水を撒く彼の背中を見た。
その背中に、何故かデジャブを感じた。
・・・あなたは一体・・・?
(5へ続く)
あとがき
リイのストーリー【4】のお届けです。
えらい間が空いてしまった・・・orz
謎の男、京介。
無感情、無表情、ついでに意地悪w
さて、リイに今後どう関わってくるのか、お楽しみに・・・。