約十五分ほどで、タクシーはあたしが一人暮らしをしているワンルームマンションに到着した。
部屋に入ると、アキはいつもと変わらぬ口調であたしの背中をポン、と叩く。
「ほら、付いたよ。シャワーでも浴びてきな」
「うん、そーさせて貰う。あ、冷蔵庫にビールあるから、飲んでていいよ」
「お、いいね。って、いーからはよ入ってこいっての。どうせなら一緒に飲もう」
「うん、分かった」
アキのぶっきらぼうな優しさがありがたい。
変に気を使って慰めてもらうよりは、こっちの方がずっといい。
あたしは熱いシャワーを浴び、ようやく気持ちを切り替える事ができた。
部屋に入ると、アキはいつもと変わらぬ口調であたしの背中をポン、と叩く。
「ほら、付いたよ。シャワーでも浴びてきな」
「うん、そーさせて貰う。あ、冷蔵庫にビールあるから、飲んでていいよ」
「お、いいね。って、いーからはよ入ってこいっての。どうせなら一緒に飲もう」
「うん、分かった」
アキのぶっきらぼうな優しさがありがたい。
変に気を使って慰めてもらうよりは、こっちの方がずっといい。
あたしは熱いシャワーを浴び、ようやく気持ちを切り替える事ができた。
「おりょ、早いじゃん。もういいの?」
「うん、お蔭でさっぱりした。送ってくれてありがと、アキ」
アキはゴロンと横になって、テレビのニュースを見ていた。
何がおかしいのか、薄ら笑いを浮かべたお天気お兄さんが明日は雨になるでしょう、などと言っていた。
「いいって事よ。その代わり、今度設定六座ったら譲ってねん」
「それは断る」
アキが用意してくれたビールを受け取りながら、あたしはきっぱり、はっきり、言い切った。
「即答かよ!」
「あたしは生活かかってんだから、しょーが無いでしょー!」
火照った体に冷たいビールを流し込み、あたしはプハー、と息を吐く。
「くぅ~、『酒は百薬の長』だね。美味い!」
「『百毒の長』って言うのも知ってる? あんま飲み過ぎないよーにね。冷蔵庫の中、ビールばっかじゃん」
「た、たまたまだよぉ。ねえアキ、今日は止まってけば? もう遅いしさ」
「ん~、そーだねぇ。明日は講義も無いし・・・」
「あたしも明日は休むよ。データも取り損ねたし」
「そっか、それじゃあ・・・」
あたし達は顔を見合わせて、高らかに宣言した。
「「今夜は飲もう!!」」
中学生の時、あたしはレイプされた。
相手は同じ中学の連中と、その先輩の高校生達だ。当時、ろくに話した事も無かった。
それがさっき通り過ぎた、あいつらなのだ。あんな馬鹿面、一度見たら忘れるもんか。
あたしは中学卒業と同時に、親の仕事の都合でアメリカに渡る事になっていた。
それを妬んだのか、気に入らなかったのか分からないが、卒業式の前日に連中に輪姦され、ボロボロにされた。
当然式に出る事もできず、心配して家に来てくれた友達に会う事もできなかった。・・・レイプされた時にひどく殴られたせいで、片目が見えないくらいに腫れていたからだ。
別れを告げる事も満足にできなかった。
母さんにはすぐにバレた。そりゃ顔を腫らして制服もボロボロとくれば、ばれない方が不思議だけど。
念の為病院で検査してもらい、レイプ後、七十二時間以内という条件付きで飲むと避妊率九十九%という薬を飲み、妊娠だけは免れる事ができた。
警察に訴えるかどうかは悩んだ。
でも、どうせすぐにアメリカに行ってしまうのだからと、自分を無理やりに納得させてしまった。
そして、また悲劇が起きた。
あたし達家族の乗る車が、空港に向かう途中の高速道路で、玉突き事故に巻き込まれたのだ。
車は大破、両親は即死。助かったのはあたしだけだった。
病院のベッドでそれを聞き、一生分の涙をそこで流しきった。
半月もしない間に、レイプされる、両親を失う、こんな不幸に連続して遭うなんて一体何の祟りかと思ったものだ。
でも、まだ、不幸は続いたのだ。
父さんは小さなIT関連の会社を経営していたが、当然のように倒産。
残った僅かな遺産は、全て借金の返済に消えてしまった。
返しきれなかった借金は父方の遠縁にあたる男が肩代わりし、あたしはその男に引き取られた。
そこで、養父となったその男に、またレイプされた。
そいつがあたしを引き取ったのは、あたしの体が目当てだった訳だ。
引き取られて一週間で襲われた。
『お前の親父の借金も払って、その上面倒を見てやるんだ、この程度の事は我慢しろ』
そう言われ、全てに絶望していたあたしは抵抗する気なんて欠片も持ち合わせちゃいなかった。
実際、涙も出なかったしね。
途中編入で高校には入れたものの、生活と引き換えに連日のように養父に抱かれ、あたしは正に生きる屍だった。
アキと知り合ったのは、その高校でだ。
その頃からあっけらかんとした性格で、大抵の事には動じない太目の神経の持ち主だった。
姉御肌というのか、面倒見が良く、いつも誰かの世話を焼いていたっけ。
そんなアキがあたしの世話を焼くようになるのには、さほど時間はかからなかった。
友達として付き合うようになってから、当時の事を聞いてみると・・・。
『だってさぁ、アンタ、重病人のゾンビか瀕死の地縛霊みたいな感じだったんだよ。普通ほっとけないでしょ?』
・・・まあ表現はともかく、当時のあたしはそりゃあ酷い状態だったのだ。
親しくなり、これまでのあたしの境遇を話した。けど、彼女は何も変わらず友達として付き合ってくれた。
アキのお蔭で、学校は楽しい場所に変わった。
でも、家では相変わらず養父の性欲処理人形だった。
二回妊娠し、二回とも中絶した。
さすがにまずいと思ったのだろう、養父はあたしを病院に連れて行き、子宮内避妊具を付けさせた。
一度付ければ五年間は有効という物で、これで妊娠しなくて済むようになるのはあたしにとってもありがたかった。
避妊の必要の無くなった養父はコンドームも付けなくなり、毎回生で中出しするようになる。
膣内射精される感覚は、何度されても慣れる物じゃなかった。
高校卒業まで耐えられたのは、アキの支えのおかげだ。
卒業して就職が決まっていた会社の社員寮に入ったけど、ちょくちょく養父に呼び出されては犯された。
会社にバレさえしなければ大丈夫と思っていたけど、甘かった。
養父の行為はエスカレートしていき、仕事中に会社の屋上やトイレで犯されるようになる。とうとう会社にバレて、クビになってしまった。
もう限界だった。
あたしは養父から逃げた。
最小限の荷物だけを持ち、あちこちを転々として仕事に就くものの、どれも長続きしなかった。
問題はあたしの体にあった。
男性と話すくらいは出来ても、近寄られると体が言うことを聞かなくなるのだ。
硬直して、心臓がバクバクして、呼吸が出来なくなっていく。
酷い時には悲鳴を上げて逃げたり、吐いてしまった事もある。
こんなイカレた女を働かせてくれる所なんて、ある訳なかった。
あたしは、男ってもんがダメになっていたのだ。
働く事が出来ないのだから、当然収入は無い。とうとうお金も底をつき、街を彷徨った。
養父の所にだけは絶対に戻りたくなかった。この時、マジで自殺を考え始めていた。
気がつくと、雨が降り出していた。
いつの間にか、僅かな荷物もどこかに捨ててしまっていた。
辿り着いたのは、歩道橋の上。
真夜中だったけど、時々は車が通る。運が良ければ即死できる。
柵を乗り越えようとした。
『死ぬなら他所で死ね、こんな所で死んだら車の運転手に迷惑がかかるだろう』
後ろから、よく通る低い声で止められた。
ゆっくりと振り向いた。
三十代半ばくらいの、背の高い男だった。
傘を差してなくて、あたしと同様ずぶ濡れだ。
随分と痩せていて、上下黒いスーツを着たその姿はどことなく陰気だった。
『・・・止めないで、あなたには関係ないでしょ』
『だから死ぬなら他所で死ね。巻き込まれた車の運転手の身になってみろ、いい迷惑だ』
冷たく、突き放した言い方だった。
いい分は正しい。でも、その言い方にムッとして睨むと、そいつがあたしの荷物を持っている事に気がついた。
『・・・その、バッグ・・・』
『ああ、やっぱりお前さんのか。道に落ちてたんでな、拾った。中身が出てたから一応入れておいた。返すぞ』
あたしの足元にバッグを置くと、そいつはポケットから光る物を取り出した。
『これも、お前のか?』
『あ・・・! ペンダント・・・!』
首に下げていたはずのペンダントだった。
胸元を触ると、無い。いつ落としたのかまるで分からなかった。
『ほら』
『えっ! ・・・あ』
そいつはあたしの右手を掴むと、掌にペンダントを乗せた。
何故か、不快感は出なかった。
寒さで震える手で、ロケットになっているペンダントを開く。
笑顔の両親と、赤ちゃんの頃のあたしが写った写真が入っていた。
失われた笑顔。
もう見る事のできない笑顔。
『・・・ぅ』
それが、泣いているように見えた。
『う、っく・・・ぅ』
ペンダントを胸に押し当て、しゃがみ込んで泣いた。
『っく、あ、ぁあ・・・ぅあぁ・・・!』
楽しかった思い出が、次々と浮かんでは消えていく。
その思い出が歪んで、あれ、と思ったのも一瞬。
あたしは、気を失っていた。
(3へ続く)
あとがき
リイのストーリー【2】のお届けです。
予想外に時間が掛かってしまった・・・orz
今回、リイは過去の殆どを独白しております。
出会った男はリイにとって吉か凶か?
次回も過去話メインになりそうです。
「うん、お蔭でさっぱりした。送ってくれてありがと、アキ」
アキはゴロンと横になって、テレビのニュースを見ていた。
何がおかしいのか、薄ら笑いを浮かべたお天気お兄さんが明日は雨になるでしょう、などと言っていた。
「いいって事よ。その代わり、今度設定六座ったら譲ってねん」
「それは断る」
アキが用意してくれたビールを受け取りながら、あたしはきっぱり、はっきり、言い切った。
「即答かよ!」
「あたしは生活かかってんだから、しょーが無いでしょー!」
火照った体に冷たいビールを流し込み、あたしはプハー、と息を吐く。
「くぅ~、『酒は百薬の長』だね。美味い!」
「『百毒の長』って言うのも知ってる? あんま飲み過ぎないよーにね。冷蔵庫の中、ビールばっかじゃん」
「た、たまたまだよぉ。ねえアキ、今日は止まってけば? もう遅いしさ」
「ん~、そーだねぇ。明日は講義も無いし・・・」
「あたしも明日は休むよ。データも取り損ねたし」
「そっか、それじゃあ・・・」
あたし達は顔を見合わせて、高らかに宣言した。
「「今夜は飲もう!!」」
中学生の時、あたしはレイプされた。
相手は同じ中学の連中と、その先輩の高校生達だ。当時、ろくに話した事も無かった。
それがさっき通り過ぎた、あいつらなのだ。あんな馬鹿面、一度見たら忘れるもんか。
あたしは中学卒業と同時に、親の仕事の都合でアメリカに渡る事になっていた。
それを妬んだのか、気に入らなかったのか分からないが、卒業式の前日に連中に輪姦され、ボロボロにされた。
当然式に出る事もできず、心配して家に来てくれた友達に会う事もできなかった。・・・レイプされた時にひどく殴られたせいで、片目が見えないくらいに腫れていたからだ。
別れを告げる事も満足にできなかった。
母さんにはすぐにバレた。そりゃ顔を腫らして制服もボロボロとくれば、ばれない方が不思議だけど。
念の為病院で検査してもらい、レイプ後、七十二時間以内という条件付きで飲むと避妊率九十九%という薬を飲み、妊娠だけは免れる事ができた。
警察に訴えるかどうかは悩んだ。
でも、どうせすぐにアメリカに行ってしまうのだからと、自分を無理やりに納得させてしまった。
そして、また悲劇が起きた。
あたし達家族の乗る車が、空港に向かう途中の高速道路で、玉突き事故に巻き込まれたのだ。
車は大破、両親は即死。助かったのはあたしだけだった。
病院のベッドでそれを聞き、一生分の涙をそこで流しきった。
半月もしない間に、レイプされる、両親を失う、こんな不幸に連続して遭うなんて一体何の祟りかと思ったものだ。
でも、まだ、不幸は続いたのだ。
父さんは小さなIT関連の会社を経営していたが、当然のように倒産。
残った僅かな遺産は、全て借金の返済に消えてしまった。
返しきれなかった借金は父方の遠縁にあたる男が肩代わりし、あたしはその男に引き取られた。
そこで、養父となったその男に、またレイプされた。
そいつがあたしを引き取ったのは、あたしの体が目当てだった訳だ。
引き取られて一週間で襲われた。
『お前の親父の借金も払って、その上面倒を見てやるんだ、この程度の事は我慢しろ』
そう言われ、全てに絶望していたあたしは抵抗する気なんて欠片も持ち合わせちゃいなかった。
実際、涙も出なかったしね。
途中編入で高校には入れたものの、生活と引き換えに連日のように養父に抱かれ、あたしは正に生きる屍だった。
アキと知り合ったのは、その高校でだ。
その頃からあっけらかんとした性格で、大抵の事には動じない太目の神経の持ち主だった。
姉御肌というのか、面倒見が良く、いつも誰かの世話を焼いていたっけ。
そんなアキがあたしの世話を焼くようになるのには、さほど時間はかからなかった。
友達として付き合うようになってから、当時の事を聞いてみると・・・。
『だってさぁ、アンタ、重病人のゾンビか瀕死の地縛霊みたいな感じだったんだよ。普通ほっとけないでしょ?』
・・・まあ表現はともかく、当時のあたしはそりゃあ酷い状態だったのだ。
親しくなり、これまでのあたしの境遇を話した。けど、彼女は何も変わらず友達として付き合ってくれた。
アキのお蔭で、学校は楽しい場所に変わった。
でも、家では相変わらず養父の性欲処理人形だった。
二回妊娠し、二回とも中絶した。
さすがにまずいと思ったのだろう、養父はあたしを病院に連れて行き、子宮内避妊具を付けさせた。
一度付ければ五年間は有効という物で、これで妊娠しなくて済むようになるのはあたしにとってもありがたかった。
避妊の必要の無くなった養父はコンドームも付けなくなり、毎回生で中出しするようになる。
膣内射精される感覚は、何度されても慣れる物じゃなかった。
高校卒業まで耐えられたのは、アキの支えのおかげだ。
卒業して就職が決まっていた会社の社員寮に入ったけど、ちょくちょく養父に呼び出されては犯された。
会社にバレさえしなければ大丈夫と思っていたけど、甘かった。
養父の行為はエスカレートしていき、仕事中に会社の屋上やトイレで犯されるようになる。とうとう会社にバレて、クビになってしまった。
もう限界だった。
あたしは養父から逃げた。
最小限の荷物だけを持ち、あちこちを転々として仕事に就くものの、どれも長続きしなかった。
問題はあたしの体にあった。
男性と話すくらいは出来ても、近寄られると体が言うことを聞かなくなるのだ。
硬直して、心臓がバクバクして、呼吸が出来なくなっていく。
酷い時には悲鳴を上げて逃げたり、吐いてしまった事もある。
こんなイカレた女を働かせてくれる所なんて、ある訳なかった。
あたしは、男ってもんがダメになっていたのだ。
働く事が出来ないのだから、当然収入は無い。とうとうお金も底をつき、街を彷徨った。
養父の所にだけは絶対に戻りたくなかった。この時、マジで自殺を考え始めていた。
気がつくと、雨が降り出していた。
いつの間にか、僅かな荷物もどこかに捨ててしまっていた。
辿り着いたのは、歩道橋の上。
真夜中だったけど、時々は車が通る。運が良ければ即死できる。
柵を乗り越えようとした。
『死ぬなら他所で死ね、こんな所で死んだら車の運転手に迷惑がかかるだろう』
後ろから、よく通る低い声で止められた。
ゆっくりと振り向いた。
三十代半ばくらいの、背の高い男だった。
傘を差してなくて、あたしと同様ずぶ濡れだ。
随分と痩せていて、上下黒いスーツを着たその姿はどことなく陰気だった。
『・・・止めないで、あなたには関係ないでしょ』
『だから死ぬなら他所で死ね。巻き込まれた車の運転手の身になってみろ、いい迷惑だ』
冷たく、突き放した言い方だった。
いい分は正しい。でも、その言い方にムッとして睨むと、そいつがあたしの荷物を持っている事に気がついた。
『・・・その、バッグ・・・』
『ああ、やっぱりお前さんのか。道に落ちてたんでな、拾った。中身が出てたから一応入れておいた。返すぞ』
あたしの足元にバッグを置くと、そいつはポケットから光る物を取り出した。
『これも、お前のか?』
『あ・・・! ペンダント・・・!』
首に下げていたはずのペンダントだった。
胸元を触ると、無い。いつ落としたのかまるで分からなかった。
『ほら』
『えっ! ・・・あ』
そいつはあたしの右手を掴むと、掌にペンダントを乗せた。
何故か、不快感は出なかった。
寒さで震える手で、ロケットになっているペンダントを開く。
笑顔の両親と、赤ちゃんの頃のあたしが写った写真が入っていた。
失われた笑顔。
もう見る事のできない笑顔。
『・・・ぅ』
それが、泣いているように見えた。
『う、っく・・・ぅ』
ペンダントを胸に押し当て、しゃがみ込んで泣いた。
『っく、あ、ぁあ・・・ぅあぁ・・・!』
楽しかった思い出が、次々と浮かんでは消えていく。
その思い出が歪んで、あれ、と思ったのも一瞬。
あたしは、気を失っていた。
(3へ続く)
あとがき
リイのストーリー【2】のお届けです。
予想外に時間が掛かってしまった・・・orz
今回、リイは過去の殆どを独白しております。
出会った男はリイにとって吉か凶か?
次回も過去話メインになりそうです。
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